老後に遺産を適切に管理するためにはさまざまな方法がありますが、なかでも近年注目されているのが家族信託とよばれる制度です。
家族に遺産管理を任せられるということで安心・安全なイメージがありますが、必ずしもそうとはいえず、後悔する人も少なからずいるようです。
家族信託はなぜ後悔することがあるのでしょうか。
失敗するのはどういったパターンが多いのか、家族信託のデメリットやその解消法もふくめて詳しく紹介します。
目次
家族信託が危険といわれる事がある理由
家族信託について調べてみると、「危険」や「やめたほうが良い」といった意見・口コミを目にすることがあります。
それはなぜなのでしょうか。
そもそも家族信託とは、老後に備えて財産の管理や運用、処分を家族に託す方法です。
通常、財産を自分の代わりに管理してもらうための方法としては、「法定成年後見」や「任意後見」といった制度があります。
しかし、これらは裁判所での手続きや監督が必要であるというデメリットがあります。
そのため、後見人を定めることなく家族に管理してもらえる家族信託は、自分が信頼できる人に自分の財産を預けるという安心感、後見人に支払う報酬が必要なくなるため、比較的経済的負担(ランニングコスト)を少なくできるという点で、メリットがあるのです。
ところが、法的知識が不十分なまま家族信託の契約書を作成すると、家族間で認識の相違が起こるケースも少なくありません。
身近な存在である家族へ財産の運用を任せるという制度であるがゆえに、「細かい契約をしなくても大丈夫だろう」と安易に考え、トラブルに発展する可能性があることから、「家族信託は危険」といわれることが多いのです。
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家族信託のデメリットとは
家族信託は必ずしもメリットばかりではなく、デメリットがあることも理解しておかなければなりません。
不動産は損益通算ができない
確定申告の際に、1年間に生じた利益から損失を相殺することを損益通算とよびます。
たとえば、信託財産となっている収益マンションやアパートなどを修繕した場合、家賃収入よりも必要経費が上回ることがあります。
通常、このように赤字が発生した場合には、給与所得や事業所得から控除を受けたり、税金の還付を受けたりすることができます。
しかし、信託財産から赤字(損失)が出た場合には、信託財産以外の給与所得やその他事業所得から損失分の控除が受けられません。
家族の負担がかかるケースがある
信託財産をもとに年間3万円以上の収入を得られた場合、信託計算書および信託計算合計表といった書類を税務署へ提出する義務が生じます。
特に、不動産の場合は家賃収入、株式など証券の場合には配当金などの収入が得られる場合も多いでしょう。
財産を託された家族にとっては、このような税務申告に関する手間がかかり、負担を増大させてしまいます。
相談できる専門家が少ない
家族信託は比較的新しい財産管理の手法であることから、すべての税理士や弁護士、司法書士が詳しく把握しているとは限りません。
日頃からお世話になっている専門家であっても、家族信託に関しては有効なアドバイスが難しいというケースもあるでしょう。
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家族信託で後悔する人のパターン
「家族に財産を託すから安心」と考えていても、実際に家族信託を運用してみるとさまざまな問題やトラブルが発生し、後悔するケースが少なくありません。
家族信託によって後悔するのはどういったパターンが多いのか、代表的な事例をいくつか紹介しましょう。
家族や親族間でトラブルが発生し不仲になる
家族信託では、基本的には受託者を1人選び、その人が財産を管理していくことになります。
しかし、子どもが複数人いる場合などにおいては、全員が納得する形で受託者を選出しないとトラブルに発展し、家族や親族が不仲になる可能性もあります。
税金が高額で支払えない
家族信託は節税目的で行うものではありません。
十分な知識がないまま家族信託に移行してしまうと、高額な贈与税や相続税が請求され、受託者が経済的に困窮する可能性があります。
信託できない財産があることを知らない
家族信託は、すべての財産を信託できるものではなく、たとえば農地や預貯金口座などは信託財産に含まれません。
このことを知らないまま信託契約書に記載した場合、その内容は無効とみなされてしまいます。
一定期間を過ぎ信託契約が無効となってしまった
家族信託では受託者と受益者(信託財産から得た利益を受け取る権利人)を指定しますが、受託者が受益者を兼ねている状態(受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態)が1年間続くと信託契約が強制的に終了するという決まりがあります。
これを知らないまま、あるいは受益者を変更することを忘れていた場合、気づいたときには家族信託が無効になっていたというケースもあるのです。
法的知識がないまま契約書を作成しトラブルに発展する
家族信託に関する契約書の書き方や必要書類などの書式は、インターネットでも簡単に取得することができます。
しかし、十分な法的知識がないまま書類を作成してしまうと、法律上の不備があり信託契約が無効になるなどしてトラブルに発展するケースがあります。
手続きが遅れ親の認知症が進んだ
信託契約を締結するためには、財産の管理を信託する親に十分な認識能力があることが条件となります。
しかし、認知症が進行すると信託契約そのものが不可能となってしまいます。
遺留分を請求される
遺留分とは、法定相続人が相続できる最低限の遺産のことを指します。
家族信託の信託財産が遺留分の対象となるかは、令和5年4月現在、明確な判例はありませんが、家族信託の契約内容が遺留分を侵害するようなものであった場合、正当な遺留分請求には応じる必要があるものと想定されます。
家族信託は比較的新しい制度のため、このように法令上不安定なところがある点もリスクの1つです。
不動産ローンの一括返済を求められた
信託財産のなかに抵当権が設定されている不動産があった場合、金融機関の許可なしに移転登記をしてしまうと、融資に関する契約の違反となります。
その結果、不動産ローンの一括返済が求められることがあります。
専門家へ依頼したところ高額な費用がかかった
家族信託の契約にあたっては、トラブルを防ぐためにも専門家へ相談のうえ法律に沿って進めることが大切です。
しかし、司法書士や弁護士などへ相談したり法的な手続きを依頼するとなると、予想外に出費がかさみ後悔する方も少なくありません。
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家族信託で失敗した実例
上記のようなパターンを認識しないまま家族信託を進めてしまうと、大きな損失を被ったりトラブルに発展したりするケースがあります。
具体的にどういった事例があるのか、いくつか代表的なものを見てみましょう。
高額な贈与税・相続税の請求
家族信託では、遺産管理の委託者を受益者として設定することが多いですが、受益者を第三者へ設定した場合、贈与税が課税されることになります。
また、遺産の価値が大きく増加することで高額な相続税が請求されることもあります。
遺産の金額によっては数十万円、数百万円単位の税金が請求される可能性があり、税金が支払えず経済的に困窮する事例も少なくありません。
認知症の発症・進行により契約不能に
信託財産の運用を巡って結論が出ないまま時間が過ぎていくと、契約が滞った状態で親の病気が進行していくケースもあります。
その結果、認知症が悪化し契約そのものが不能になり、家族信託の契約が無効となる事例も少なくありません。
「1年ルール」で信託契約が強制終了
委託者である親が亡くなったとき、受託者へ受益権が移行する場合が多くあります。
上記でも解説した通り、受託者=受益者の状態が1年続くと、信託契約は強制的に解約となってしまいます。
このような知識がないまま放置しておく事例も多く、気づかないうちに信託契約が終了していたというケースが少なくありません。
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家族信託をしたほうがいい人の特徴
さまざまなリスクやデメリットなどを考えたとき、家族信託はどういった人に適している制度なのでしょうか。
親が不動産を所有している
親の認知症が進んだとき、適切な判断能力がなくなりさまざまな契約手続きができなくなることがあります。
特に不動産を所有している場合、売りたいタイミングですぐに手続きができず、機会を逃してしまう可能性もあるでしょう。
そこで、あらかじめ家族信託の契約を完了させておくことで、受託者である家族が親に代わってさまざまな手続きが可能になります。
介護や病気の治療にかかる費用を親の財産から出したい
介護や病気の治療が長引くと、子どもの資産だけでは費用が捻出できなくなることも考えられます。
そこで、親がもっている資産を活用したいという方も多いでしょう。
家族信託の契約を締結しておけば、万が一のときでも親の資産を売却するなどして不足分の資金を捻出できます。
親の加齢が進み認知症が心配な人
年齢を重ねてくると、物忘れや判断能力の低下が見られるようになる人も少なくありません。
老化現象である物忘れと認知症は別物ですが、加齢にともないいつ認知症を発症してもおかしくありません。
認知症を発症してからでは家族信託の契約は難しくなることから、早いうちに手続きを済ませておいたほうが良いかもしれません。
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家族信託のデメリットを解消する方法とは
家族信託におけるリスクやデメリットを解消するためには、家族と十分に話し合いトラブルを回避することが大前提となります。
しかし、それだけでは不十分であり、法律に関する専門的な内容まではフォローすることができません。
たとえば、想定外の税金が請求されたり、書類の不備による信託契約の無効、遺留分の請求などのトラブルを回避するためには、法律の専門家によるアドバイスやサポートが不可欠です。
そのため、家族内だけでなく、司法書士や弁護士といった法律の専門家も交えて、全員が納得するまで話し合うことが何よりも大切といえるでしょう。
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L&P司法書士法人は家族信託などの遺言・相続をトータルサポート
法律の専門家に家族信託のことを相談したいと考えていても、比較的新しい制度であることから、すべての専門家が対応できるとは限りません。
もし、家族信託に対応できる専門家がなかなか見つからない場合には、L&P司法書士法人へご相談ください。
L&P司法書士法人では相続手続きに関するトータルサポートが可能であり、家族信託も含め遺産分割や遺言書の作成、所有権移転登記、相続放棄申立書の作成など、さまざまな手続きの相談・依頼が可能です。
家族信託も含めて、どういった手続きや方法が最適なのか一から相談したい場合には、L&P司法書士法人がおすすめです。
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まとめ
誰よりも身近な家族に遺産の管理を任せられる家族信託は、手軽で安心な方法であるとイメージしがちです。
しかし、家族だからといって曖昧な信託契約のまま進めてしまうと、思わぬトラブルに見舞われることも少なくありません。
また、必ずしも家族信託がベストな方法とは限らず、法律的な観点から総合的に判断することが大切です。