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国民年金手帳の廃止と不動産登記実務への影響(本人確認情報における2号書面の視点から)

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年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律(令和2年法律第40号)において、国民年金法が改正され、令和4年4月1日から国民年金手帳が廃止されました。

それに伴い、新たに国民年金、厚生年金保険の被保険者となった人(20歳になった人等)には、基礎年金番号通知書が発行されることになりました(国民年金法施行規則第10条1項、厚生年金保険法施行規則第81条1項)。

あわせて、改正不動産登記規則第72条第2項第2号が施行され、国民年金手帳に代わる書面として、基礎年金番号通知書が新たな2号書面として規定されています。

そのため、登記義務者となる人が、登記識別情報や登記済証を失念や紛失をしたことにより、提供、提出をすることができない場合、司法書士は基礎年金番号通知書の提示を受け、本人確認情報を作成することができます。

関連法の改正からまもなく1年が経ちますが、まだ馴染みが薄いと思われますので、登記実務において司法書士が知っておいた方がよいポイントをQ&A形式でまとめました。

以下、法令は下記のように表記しています。

・不動産登記規則/不登規則
・国民年金法施行規則/年金規則
・犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則/犯収規則


不登規則第72条第2項第2号は、どのように改正されましたか?


提示が必要な書面として規定されていた「国民年金手帳」から、「基礎年金番号通知書」へと改正されました。


この改正により、基礎年金番号通知書と、別のもう1点の2号書面を組み合わすことによって、本人確認情報を作成することができます。 

■不登規則第72条第2項第2号(抜粋)

(資格者代理人による本人確認情報の提供)

国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、国家公務員共済組合若しくは地方公務員共済組合の組合員証、私立学校教職員共済制度の加入者証、基礎年金番号通知書(国民年金法施行規則(昭和35年厚生省令第12号)第1条第1項に規定する基礎年金番号通知書をいう。)、児童扶養手当証書、特別児童扶養手当証書、母子健康手帳、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳又は戦傷病者手帳であって、当該申請人の氏名、住所及び生年月日の記載があるもののうちいずれか2以上の提示を求める方法

※下線部が改正部分


なお、上記の下線部は、改正前は下記のように規定されていました。

「国民年金手帳(国民年金法(昭和34年法律第141号)第13条第1項に規定する国民年金手帳をいう。)」

基礎年金番号通知書は、どのようなことが記載されていますか?


基礎年金番号通知書には次の事項が記載されています(年金規則第10条第2項)。
①基礎年金番号、②氏名、③振り仮名(カタカナで記載)、④生年月日、⑤交付年月日
基礎年金番号は10桁の数字で記載されています。


「住所」や「有効期限」の記載はありません。

色は黄色で、大きさはクレジットカードとほぼ同じです。見本が日本年金機構のホームページに掲載されています。

 ■日本年金機構ホームページ「令和4年4月から年金手帳に代わり基礎年金番号通知書を発行します」

基礎年金番号通知書には住所の記載がありませんが、不登規則第72条第2項の2号書面に該当しますか?


該当します。

基礎年金番号通知書における事項の回答のとおり、基礎年金番号通知書には「住所」の記載がありません(年金規則第10条第2項)。

不登規則第72条第2項では、2号書面に該当するのは、氏名と生年月日のほか、「住所」の記載があるものと規定されています。

そのため、基礎年金番号通知書は、本来、2号書面に該当しないと思われますが、法務省民事局が公表している下記の引用資料「3 不登規則の改正の必要性」には、次のような記載があり、2号書面に該当するとの見解が示されています(若干の疑義が残るところではあります。)。 

■引用資料【年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記規則の一部を改正する省令の概要について】「基礎年金番号通知書には、国民年金手帳と同様、氏名(片仮名で振り仮名を付す)及び生年月日が記載される(年金規則第10条第2項第2号)ことから、当該通知書を不登規則第72条第2項に掲げる資格者代理人による本人確認情報の一つとすることに支障はない。」


令和4年4月1日時点において、既に国民年金手帳を持っている人に対しては、改めて基礎年金番号通知書は発行されますか?


発行されません(年金規則附則(令和3年6月30日厚生労働省令第115号)第2条)。


この場合、年金規則附則第6条では下記のように規定され、既に持っている国民年金手帳がそのまま使えるということになっています。 

■年金規則附則第6条
(国民年金手帳の交付を受けている者等に係る国民年金手帳の使用等に関する経過措置)
この省令の施行の際現に交付されている国民年金手帳及び通知書は、当分の間、この省令による改正後の省令に規定する基礎年金番号を明らかにすることができる書類とみなす。

ただし、令和4年4月1日以降に既に持っている国民年金手帳を紛失し、再発行を受けた場合は、基礎年金番号通知書が発行されます(年金規則附則第3条第1項)。

そのため、基礎年金番号通知書を持っているのは、しばらくの間は、同日以降に国民年金等の被保険者になった比較的若い世代の人が多いように思われますが、同日以前から国民年金手帳を持っていた、例えば、年配の人であっても、紛失に伴う交付申請をしていれば、基礎年金番号通知書を持っていることになります。  

令和4年4月1日時点において、既に持っている国民年金手帳は、不登規則第72条第2項の2号書面に該当しますか?


不登規則附則第2条は、下記のように規定され、既に持っている国民年金手帳は、引き続き、2号書面に該当するとされています。
 

■不登規則附則第2条
(経過措置)
国民年金手帳(中略)の交付を受けている者についての不動産登記規則第72条第2項第2号の規定の適用については、
なお従前の例による。 

また、法務省民事局が公表している下記の引用資料「5 経過措置」にも、次のような記載があり、2号書面に該当するとの見解が示されています 。

■引用資料【年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記規則の一部を改正する省令の概要について
「国民年金手帳は施行日以後も基礎年金番号を明らかにすることができる書類として引き続き年金関係手続において使用することが可能であることを踏まえると、同手帳を不登規則第72条第2項第2号における本人確認書類として引き続き認めることとしても差し支えないと考えられる。」

 

【参考】

国民年金手帳の記載事項は、①基礎年金番号、②氏名、③振り仮名(カタカナで記載)、④生年月日、⑤性別、⑥交付年月日ですが、発行の時期により、記載事項が異なります。

古い時期に発行されたものでは、住所の記載があったり、交付年月日の記載がなかったりするものがあります。

なお、「有効期限」の記載はありませんので、交付年月日が古いものであっても、2号書面とすることができます。


ただ、あまりに古いものは、下記の不動産登記事務取扱手続準則第49条第4項を根拠に、事前通知(不動産登記法第23条第1項)の手続きとなる可能性があります。

交付から一定期間が経過している場合には、国民年金手帳以外の別の2号書面の提示を求めた方がよいでしょう。 

■不動産登記事務取扱手続準則第49条第4項
登記官は、本人確認情報の内容を相当と認めることができない場合には、事前通知の手続を採るものとする。

基礎年金番号通知書と国民年金手帳の2点を組み合わせて、不登規則第72条第2項の2号書面とすることはできますか?


2号書面とすることには疑義があるのではないかと考えられます。

国民年金手帳に記載された氏名に変更があった場合は、基礎年金番号通知書の交付申請ができるとされています(年金規則附則第3条第1項)。

この交付申請の際、申請書を提出する必要がありますが(同条第2項)、変更前の氏名が記載された国民年金手帳を提出しなければならないとはされていないため、基礎年金番号通知書の交付を受けた後も、国民年金手帳を持ち続けることがあると考えられます。

また、国民年金手帳の紛失を理由に基礎年金番号通知書の発行を受けた後に、紛失したはずの国民年金手帳が見つかったような場合も、同様のことが考えられます。

国民年金手帳は、令和4年4月1日以降も有効であり(年金規則附則第6条)、新たな基礎年金番号通知書の発行によっても失効するとされているわけではないようです。

しかし、これらの書面は同じ役割の書面であることから、これら2点を組み合わせても、国民年金手帳の方には2号書面としての適格性に疑義があるのではないかと思います(氏名変更の例では、国民年金手帳には変更前の氏名が記載されたままです。)。

司法書士の執務姿勢としては、国民年金手帳以外の別の2号書面の提示を求めることを検討した方がよいのではないかと考えられます。


司法書士が基礎年金番号通知書を確認する場合の注意点はありますか?


以下のことが考えられます。

基礎年金番号通知書には、①基礎年金番号(10桁の数字)、②氏名、③振り仮名(カタカナで記載)、④生年月日、⑤交付年月日が記載されています。住所や有効期限の記載はありません。

もし、交付年月日が「令和4年3月31日」以前の日にちとなっていれば、偽造が疑われます(国民年金手帳において、交付年月日が「令和4年4月1日」以降の日にちとなっていても同様です。)。

基礎年金番号通知書は、新しい制度であるため、記載事項のほか、形状などにも注意を払っておきたいところです。

令和4年4月1日以降、国民年金手帳は、犯罪収益移転防止法上の取引時確認における本人確認書類に該当しますか?

 

犯収規則附則第2条は、下記のように規定され、既に持っている国民年金手帳は、引き続き、本人確認書類に該当するとされています。

■犯収規則附則(令和4年3月31日内閣府・総務省・法務省・財務省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省令第1号)第2条

(経過措置)

この命令による改正後の犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則(以下この項において「新規則」という。)第7条の規定の適用については、この命令の施行の際現に交付されている国民年金手帳((中略)当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があるものに限る。)は、年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令(令和3年厚生労働省令第115号)附則第6条第1項の規定により、同令による改正後の省令に規定する基礎年金番号を明らかにすることができる書類とみなされる間は、新規則第7条第1号ハに掲げる書類とみなす。

 ■犯収規則第7条第1号(抜粋)
(本人確認書類)

ハ 国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、国家公務員共済組合若しくは地方公務員共済組合の組合員証、私立学校教職員共済制度の加入者証、児童扶養手当証書、特別児童扶養手当証書若しくは母子健康手帳(当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があるものに限る。)(以下略)

 
また、国土交通省不動産・建設経済局が公表している下記の引用資料には、年金規則附則第6条(上記A4を参照)を根拠に、次のような記載があり、既に交付されている国民年金手帳は本人確認書類に該当するとの見解が示されています。

■引用資料【取引時確認の本人確認書類としての国民年金手帳の取扱いについて
「現に交付されている国民年金手帳は、当分の間、基礎年金番号を明らかにすることができる書類とみなされることを踏まえ、(中略)現に交付されている国民年金手帳を規則第7条第1号ハに掲げる書類とみなすこととされた。」

基礎年金番号通知書は、犯罪収益移転防止法上の取引時確認における本人確認書類に該当しますか?



犯収規則第7条第1号ハ(上記Q8を参照)には、基礎年金番号通知書が本人確認書類に該当すると規定されていませんが、下記の規定を根拠に本人確認書類に該当すると考えられます。

ただし、基礎年金番号通知書には住所(住居)の記載がないため、本人確認書類に該当するというには、若干の疑義が残るところではあります。

 ■犯収規則第7条第1号(抜粋)
(本人確認書類)
ホ (中略)官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があるもの(以下略)


 

  司法書士 桑田直樹(神戸事務所)

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