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「会社と取締役の利益相反取引」を承認する取締役会の議事録作成の際に留意いただきたいこと

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不動産の取引をする場合に、取引の当事者が「会社とその取締役」や、「一方の会社の代表取締役が他方の取締役を兼ねている複数の会社」などの組み合わせになっているときは、その取引が「利益相反取引」に該当しないか、ということに注意する必要があります。


利益相反取引とは

 

たとえば、取締役Aが会社との間で不動産売買を行う場合には、取締役Aと会社は売主・買主の関係に立つため、両者の間に利害の対立が生じます。

この場合、取引の一方当事者が自分自身であるために、Aには「会社の利益のために行動する」という取締役としての責任を果たすことが期待できず、結果として自分自身に有利な契約を締結するなどして、会社(ひいては、株主)に損害を与えかねません。

そこで、このような取引(利益相反取引といいます)を行う場合には、「取締役は、その取引について重要な事実を開示して、取締役会の決議(※)による承認を受けなければならない」こととされており(会社法356条・同365条)、その承認を得ないで行った利益相反取引について、会社側は、取引の相手方に対してその無効を主張することができるとされています。

なお、会社側が第三者に対して取引の無効を主張するためには、「承認決議を経ていないことをその第三者が知っていたことを会社側が立証すること」等の一定の要件があります(最判昭和43年12月25日、江頭憲治郎「株式会社法〔第7版〕」448頁参照)。

 

(※)取締役会を置かない株式会社の場合は、株主総会の決議による承認が必要です(会社法356条)。今回は、取締役会を置く会社を念頭に置いて話を進めます。

 

このように、不動産の取引が利益相反取引に該当する場合には、(事後的に)会社側からその効力を否定され、取引が無効と評価されるリスクが内在しています。

 

そのため、利益相反取引に基づいて不動産の登記手続を行う場合には、無効な登記の出現防止の観点から、適法な承認決議を経ていることの証として、取締役会議事録等の書類を法務局に提出(登記申請書に添付)しなければならないこととされています。

また、利益相反取引に金融機関からの融資・担保設定が関わる場合には、登記手続よりも前の段階で、金融機関から取締役会議事録(の写し)等の書類の提出を求められることも多いと思われます。

承認決議を証する書面としての取締役会議事録

 

取締役会議事録は登記申請の際に添付書類となることが多いため、私ども司法書士が文案作成の段階から作成に関与することが多い書類ではありますが、取締役会の招集・開催・決議・議事録作成という社内手続の一連の流れの最後に位置付けられるものとして、文案作成から調印・保管まで、社内で完結させるのが基本であるといえます。

 

そのため、会社側で作成した(=既に調印まで済んでいる)議事録を、後から登記手続を担当する司法書士が「不動産登記の添付書類として必要な事項が記載されているか、適切な印鑑が押されているか」等の観点からチェックするという場面も少なくありません。

 

前に述べた通り、利益相反取引を承認した際の取締役会議事録は法務局・金融機関への提出が想定されるため、その作成にあたっては、「会社法上のルールに則っているか」ということのほか、「不動産登記手続で添付書類として使用する場合に、そのまま使える様式になっているか」、「提出先の金融機関にも受け入れられる内容になっているか」等、様々な視点からの検討が必要です(「会社法上のルールは守れていても、外部への提出書類として不十分」ということが起こり得ます。)。

 

そこで、以下では、取締役会議事録を会社内部で作成することを想定して、不動産登記の添付書類となるということをふまえた「利益相反の承認決議の取締役会議事録」の作成上の注意点をいくつか挙げたいと思います(金融機関内部での取扱いについては、各金融機関のご担当の方に都度ご確認いただければと思います)。

利益相反取引の当事者である取締役の出席と議決権行使

 

そもそも取締役会議事録の作成という手続的な話以前の、実体的な「取締役会の招集・開催・決議」の手続に関する留意点です。まず、取締役会の決議は原則として議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行うこととされており(会社法369条1項)、決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができません(同条2項)。

 

そして、利益相反取引を承認する取締役会において、取引当事者である取締役は、ここでいう「特別の利害関係を有する取締役」に該当するため、議決に加わる(議決権を行使する)ことはできず、決議が成立したかの判断にあたり、定足数(出席取締役の最低数)の計算からも除外されます。

 

たとえば、取締役ABCDEFの6名で取締役会が構成されている場合、通常の取締役会決議は「ABCDEFのうち4名以上出席+出席者の過半数の一致」で成立となりますが、利益相反取引の承認決議で取引当事者がAであるという場合には、「BCDEFのうち3名以上出席+出席者の過半数の一致」で決議が成立します。

 

なお、当事者である取締役(上記例でいうA)が、「取締役会において議決権を行使することができない」ということと、「取締役会に出席することができるか(できるとして、それが適切か)」ということは分けて考える必要があります。

 

当事者である取締役が承認決議を行う取締役会に出席すること自体は、承認決議の効力を判断するうえで特段支障となるものではなく(「登記研究」457号・121頁参照)、むしろ、「取締役は、その取引について重要な事実を開示して、取締役会の決議による承認を受けなければならない」とされていることからすると、基本的には出席すべきであるとの見解が示されています(「会社法コンメンタール(8)」239頁、「利益相反行為の登記実務」158頁参照)。

 

ちなみに、当事者である取締役がうっかり議決に加わってしまった(議決権を行使してしまった)場合はどうなるのかという疑問が生じますが、この点については、「その者を除いてなお決議の成立に必要な多数が存するときは、決議の効力は妨げられない」と解されています(「会社法論(中)」200頁、「注釈会社法(6)」118頁、「利益相反行為の登記実務」159頁参照)。

 

上記の見解によれば、仮に当事者である取締役が議決に加わってしまった場合でも、その1票をカウントするかどうかで可決・否決の結論が180度変わってしまうというような場合でなければ、承認決議は有効であり、取締役会決議をやり直したりする必要はないということになります。

とはいえ、当事者である取締役は、本来議決に加わるべきではありませんので、実際の取締役会を開催するにあたっては、当事者である取締役が議決に加わらないように注意すべきです。

 

また、議事録の記載上も、これらの点について疑義を生じさせないような記載内容とすることが望ましいと考えられます。たとえば、出席取締役の欄に当事者である取締役の氏名の記載があり、なおかつ、「…満場一致で承認可決した」というような記載(だけ)があると、当事者である取締役が議決に加わったように読めてしまいます。

このような場合の対応としては、「…承認可決した。」という記載の後に、「なお、取締役○○は本議案につき特別利害関係を有するため、議決に加わっていない。」という一文を追加する等の方法が考えられます。

 

なお、記載要領は必ずしも上記のようなものに限定されませんが、「決議を要する事項について特別の利害関係を有する取締役があるときは、当該取締役の氏名」は取締役会議事録の法定記載事項とされている(会社法施行規則101項3項5号)ため、何らかの形で取締役会議事録の内容とするのが「会社法上のルール」となっています。

取締役会議事録に誰が記名押印しているか(誰が記名押印すべきか)

 

取締役会の議事については、「議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない」ものとされています(会社法369条3項)。

上記の内容を整理しますと、

  • 会社には「取締役会議事録作成義務」があり、
  • 出席した取締役・監査役全員には、議事録への「署名又は記名押印の義務」があるということになります。ここまでは、会社法上のルールとして定められています。

取締役会議事録にどの印鑑を押印しているか(どの印鑑を押印すべきか)

 

次に、出席した取締役及び監査役が取締役会議事録に記名押印する場合に、「どの印鑑で押印するのか」、すなわち「実印を押印するのか、認印でもよいのか」という点が問題となりますが、これについては、会社法では特にルール化されていません(そもそも会社法上のルールとしては、「署名又は記名押印」、すなわち署名だけでもよいわけです)。

 

では、利益相反取引の承認決議の取締役会議事録を作成する際も「押印は認印でよい」のかというと、常に認印でよいとは言い切れません。

繰り返しになりますが、利益相反取引の承認決議に関する取締役会議事録は不動産登記の際に添付書類となるため、利益相反取引が不動産取引であるときは、不動産登記のルールも確認しなければなりません。

 

そこで、不動産登記のルールを確認しますと、登記申請書に添付する「登記原因に関する第三者の同意書又は承諾書」(※「利益相反取引の承認決議の取締役会議事録」はこれに該当します。)には、その作成者が記名押印しなければならず(不動産登記令19条1項)、記名押印した者の印鑑証明書を添付しなければならない(同条2項)とされています。

 

さらに、不動産登記実務には「先例」という、具体的な事案における法令の解釈や運用について法務省が示した見解が存在しますので、これも確認しますと、この場合の取締役会議事録には、

  1. 法務局に印鑑を届け出ている代表取締役については、法務局に届け出ている会社実印を押印してその印鑑証明書(法務局発行のもの)を添付し、
  2. 1. 以外の取締役については、市区町村に届け出ている個人実印を押印してその印鑑証明書(市区町村発行のもの)を添付しなければならないとされています(昭和39年4月6日民事甲第1287号通達、昭和45年8月27日法務省民事三発第454号民事局第三課長回答)。

 

※ ちなみに、取締役会議事録に添付する出席(代表)取締役・監査役の印鑑証明書については、特に「作成後3か月以内のものでなければならない」といった法律上の期限が存在しないので、作成後3か月以内のものでなくてもかまいませんが、不動産登記の添付書類として法務局に提出した場合、原本付け切りになる(原本還付不可)ということにも留意する必要があります(登記手続完了後に印鑑証明書を合綴した取締役会議事録を会社保管書類としたい場合は、法務局提出用とは別に印鑑証明書を各取締役に用意してもらう必要があります。)。

その他の留意点・疑問点等

 

今回、利益相反取引の例として「取締役と会社間の不動産売買」を取り上げましたが、利益相反取引の態様は多様であり、これ以外にも様々なパターンがあります。

 

その他、不動産取引が利益相反取引となる典型的な事例としては、

  • 代表取締役が同一のA社とB社の間での不動産売買
  • 代表取締役が同一であるA社の債務の担保のために、B社の不動産に金融機関が担保権を設定する場合

などが挙げられますが、実際の取引内容や役員構成、その取引において会社を代表する者の組み合わせがこれらの典型事例と微妙に異なり、承認決議が必要となるケースかどうか判断に迷うということも考えられます(実際に判断に迷ったこともあります)。

その他、疑問に思われやすい点、ご質問をいただくことがある点としては、

□ 契約締結後に利益相反取引に該当することを金融機関等に指摘されたが、事後的な承認でも問題ないか

□ 普段は代表取締役が議長となって取締役会を招集し、議事を進行しているが、代表取締役が取引当事者であるときは、どのような対応が必要となるか(代表取締役が議長を務めることに問題はないか)

□ 監査役は、取締役会に出席したとしても議決権を行使できないのに、監査役の実印の押印と印鑑証明書の添付も必要なのか(監査役は出席させなくても問題ないか)

□ 監査役が業務監査権限を有しない、いわゆる会計限定監査役の場合はどうか

□ 取締役会を実開催せず、書面決議とした場合はどうか

□ 取締役会をリモート開催した場合はどうか 

等があり、それぞれ具体的事例に即した対応が必要となります。

また、取締役会設置会社でない会社においては、利益相反取引の承認は株主総会の決議で行うことになりますが、株主総会議事録の作成上のルール(取引当事者が議決権を行使できるかどうかや、誰が議事録に記名押印をすべきか等)は、取締役会議事録の作成上のルールと大きく異なります。

 

本稿で述べた内容はあくまで「取締役会議事録」の作成上の留意点であり、「株主総会議事録」には全く当てはまりませんので、注意が必要です。

利益相反取引に該当する(おそれのある)不動産取引を行う場合は、早めの段階で、登記を担当する司法書士にもご相談いただくことをお勧めします。

(司法書士 杉原佑典/神戸事務所)

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