「事前閲覧」とは
司法書士は、登記申請の代理を主業務の一つとしていますが、その業務の一環で、『登記申請をする前に登記簿を閲覧して、(それまで把握していた情報から)最新の登記記録に変更がないかを確認する業務』があります。
これを「(登記簿の)事前閲覧」といいます。登記申請の前日(法務局の閉庁時間である17時15分以降)または申請当日の朝~申請直前に、対象物件の登記簿を閲覧します。
登記情報提供サービス(有料)を使えば、インターネット上で手軽に最新の登記情報を閲覧できます。
事前閲覧が必要な理由
閲覧した結果、最新の登記簿と、それまで把握していた情報とに相違があれば、対処する必要が出てきます。例えば、以下のような状況が考えられます。
- 登記簿上の所有者(売主)の住所や氏名が取引日の前に変更されており、登記簿と相違してしまった場合、住所や氏名の変更登記をする必要があります。(事前に変更しているという情報を把握していた場合は、当初から必要書類等をご案内しています。)
- 所有者(売主)に税金の滞納がある場合、裁判所の嘱託によって、税務署や地方公共団体(市区町村)の差押の登記がされてしまうことがあります。この場合、差押登記を消して、負担のない状態で買主に所有権移転登記をする必要があります。
事前閲覧によってこれらの事態が判明した場合、登記申請が増えるため、必要書類や登記費用が追加になる可能性があります。また、状況・場合によっては、取引(お引渡し)の日程を延期しなければならない場合もあります。
登記簿は本人を確認する一資料
不動産取引の際、司法書士は売主様と直接お会いします。その時の確認事項として一般に、「人・物・意思」の確認が重要であるといわれています。
その「人」がその「物」(不動産)を持っていて、売る「意思」があるかどうかを確認するということです。この確認時には、免許証等の本人確認書類を拝見して、登記簿上の住所や氏名と一致しているかどうかを確認します。
この時に閲覧した登記簿からご住所を移されていて、免許証等の住所が変わっているといった場合は、「物」の所有者が、その「人」であるという確認が難しくなります。そうすると、これを確認するためにまた住民票等の別の資料をお願いすることになります。
所有者が法人(会社)の場合
法人の場合、司法書士が会社の代表者とお会いできる場合であれば、会社の本店と名称のほか、代表者の住所と氏名を確認することになります。
「物」を持っている法人の代表者がその場にいる「人」と同一人物であるかを確認するためです。この点につき、会社の登記簿には、代表者の氏名と住所も記載されています。
しかし、法改正により、オンラインで謄本を閲覧できる登記情報提供サービスに限り、代表者の住所が表示されなくなるようになり、2022年9月より施行される予定です。プライバシー保護のためとはいえ、司法書士の確認業務には多少の影響がありそうです。
事前閲覧ができない!?「事件中」は怖い
ちなみに、登記簿を閲覧できない場合があります。
それは、誰かがその不動産・会社の登記を申請中(俗に「事件中」といいます。)の場合です。まさに今、法務局が登記の審査中である場合、法務局は申請前の登記簿を発行するわけにもいかないし、もちろん登記完了後の情報での登記簿も発行できません。
一度登記を申請すると、法務局の審査・処理が完了するまで通常1~2週間程度は「事件中」となり、事前閲覧できない(謄本が取得できない)ことになります。
例えば、法人の代表者が大事な取引を前に、体裁を整えようと、良かれと思って今まで放置していた代表者の住所変更登記を申請し、登記が完了しなかった場合等が考えられます。
登記申請中(事件中)は会社の登記事項証明書や印鑑証明書の取得もできません。会社名義の不動産の売買取引が控えている場合などは、ご自身で登記申請をする前に、事前に担当司法書士にご相談下されば幸いです。
今回は司法書士業務の中でも、あまり一般には知られていない業務について書きました。司法書士業務について、少しでも興味をもって頂けたら嬉しく思います。