背景 ~「所有者不明土地」の現状~
登記簿上の所有者が死亡した後、相続登記をせず、そのまま登記が放置された状態が何世代も続いた結果、現在の所有者が分からない土地が増加しています。
また、所有者が判明してもその所在が不明で連絡がつかないという土地も増えており、これらの土地を「所有者不明土地」といいます。現在、このような「所有者不明土地」は九州本土の面積に相当しており、社会問題となっています。
「所有者不明土地」の増加は、様々な問題を引き起こすことが懸念されています。
- 土地が管理されず放置され、隣接する土地に悪影響を及ぼす。
- 公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まない。
- 民間取引が阻害される。
- 課税すべき所有者が特定できず、固定資産税を徴収できない。
- 所有者の探索に多大な時間と費用が必要となる。
→「所有者不明土地」の所有者(相続人)を特定するための国の施策については、下記の記事でも取り上げています。
「長期間相続登記がされていないことの通知が来たら・・・」下記URLから
https://lp-s.jp/blog/20211101/
法改正・新法制定
「所有者不明土地」をこれ以上増やさない①発生抑制・予防の施策と、既に発生している「所有者不明土地」の②利用の円滑化の2つの観点から、民法・不動産登記法等の改正、および通称:相続土地国庫帰属法が令和3年4月28日に成立・公布されました。
今回こちらの記事では「①発生抑制・予防の施策」を目的とした相続登記義務化について、どのような法律の改正があったのかを具体的に取り上げたいと思います。
「所有者不明土地」の発生抑制・予防の施策
◇相続登記義務化について
(登記を放置することがないように、相続登記を促進する不動産登記制度の変更)
不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務としました。
今まで相続登記は任意とされていましたが、それを義務化にすることで登記簿の所有者情報の更新(=相続登記による所有権の名義書き換え)を促すことが狙いです。
具体的には、「相続人であること」と「不動産を相続したこと」の2つの事実を知った時から、3年以内に相続登記の申請をすることが義務とされています。
例えば、自分が相続人であることは知っていたが、被相続人(=亡くなった方)が、地方の山林や私道部分を所有していたことを後になって知った場合には、該当する不動産の存在を知った時が、3年の起算日となります。
また、相続登記を義務化するにあたり、正当な理由のない相続登記の申請漏れには10万円以下の過料という行政罰が課されます。
具体的にどのようなことが「正当な理由」にあたるのか、また過料の具体的な金額の決定については、裁判所が事案ごとに判断するものと思われます。
(詳細については、法務省のガイドラインや政令等で今後発表される見通しです。)
なお、この3年以内の相続登記申請の義務は、今回の改正「前」に既に発生している相続についても、ペナルティの対象になるので注意が必要です。
「10年以上前に父が亡くなったが、父名義の実家の相続登記をしていない…」というような場合でも、「改正法の施行日施行日から3年以内」に相続登記の申請をする必要があります。
(施行日は未定ですが、遅くとも令和6年4月28日までには施行される見通しです。)
◇相続申告登記の新設
相続登記を義務化することで国民の負担が増えることのバランスを取るために、負担軽減の策も考えられています。それが「相続申告登記」制度の新設です。
相続人が、戸籍等の書類を添付して、「私が相続人です」と法務局へ申し出ることで、相続登記の義務を果たすことができます。相続人のうち1名のみからの申告が可能で、法務局へ提出する書類も少なく済みます。遺産分割協議がまとまっておらず、3年以内に相続登記を申請できない、というような場合でも、この制度を利用することで、相続登記の申請義務を簡易に果たすことが可能となります。
この制度を利用して申告すると、申告を受けた法務局の登記官は、職権で申告者の住所と氏名を登記します。これは、報告的登記と呼ばれ、あくまで一時的なものなので、申告者が該当する不動産の所有権を取得したということにはなりません。相続登記の申請義務を果たした上で、改めて相続人全員による遺産分割協議で相続する人を決めて、相続登記を申請する必要があります。ただし、この場合に関しても、遺産分割協議が成立してから3年以内に相続登記を申請する必要があります。
さいごに
以上が、「所有者不明土地」の発生抑制・予防の施策の1つである相続登記の義務化についての概要でした。
他にも、住所変更登記の義務化や、望まずして相続した土地を放棄できる相続土地国庫帰属制度など、「所有者不明土地」の発生抑制・予防の施策が予定されています。こちらについては、また改めて記事にしたいと思います。
(司法書士 荒井崇正/東京事務所)