相続は親族同士の深刻なトラブルの種になりやすく、生前から被相続人の十分な対策が欠かせません。遺された相続人が揉めないために、遺言を書く人が増えてきました。
遺言は相続内容を確定する上で、どのような効力を持つのでしょうか?
また、遺言の種類にはどんなものがあり、特に効力が強いと言われる公正証書遺言をどのように作成すれば良いのかについて解説しましょう。
遺言とはどんなもの?
一般的に遺言とは、生前に家族や知人に自分の思いを伝えるために残す書面ですが、相続においては、自分の財産を死後、誰に譲るか明確にしておく文書を指します。
個人の財産は、現金といった金融資産をはじめ、土地建物などの不動産から株式まで多岐にわたります。こうした財産は、どれを誰に譲るかを所有者が自由に決められるのです。
たとえば、法定相続人がいたとしても、赤の他人に全財産を譲渡するという内容の遺言も有効です。
遺言を口頭で伝えることも可能ですが、被相続人が亡くなった後は、何の証拠も残らないので、法定相続人などの間で紛争が起きるでしょう。
こうしたトラブルを防ぐため、遺言書という書面が欠かせません。
遺言書の種類
遺言書は、遺産相続のうえで、最も強い効力を持ちます。
遺言書を残せば、遺留分減殺請求の分を除き、ほぼ被相続人の意思の通りに相続がなされると言って良いでしょう。
ただし、遺言は規定された形式に沿って作成しなければなりません。
遺言には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。
自筆証書遺言は、手数料や依頼料がかからず、最も手軽に作成できる遺言方式です。
もっとも、従来は、被相続人が全文を直筆で書き上げた上で署名捺印しなければ有効ではありませんでしたが、2019年に法律が一部改正され、財産目録についてはワードなどに入力した文章を印刷し、署名と捺印を加えれば自筆証書遺言として認められるようになったのです。
また、自筆証書遺言が効力を発揮するためには、相続開始後に、家庭裁判所の検認が必要となりますが、2020年に始まった法務局の「遺言書保管制度」を利用すれば、検認が不要となりました。
自筆証書遺言の存在は、第三者の検証・確認が難しいため、せっかく書き遺しても発見されずに破棄されたり、形式が整っていなかったりして無効となってしまうケースが少なくありません。
秘密証書遺言は、公証人に遺言書の存在だけを証明してもらえる遺言書です。
遺言の内容を他人に知られること無く遺せるもので、存命中は遺言内容を知られると紛争になるおそれがある場合などに利用されます。
作成には公証役場での手続きが必要で、相続開始後には家庭裁判所の検認が必要です。
公正証書遺言とは?
公正証書遺言は、公証役場で被相続人が口頭で遺言内容を公証人に伝えて公証人が記録したものを遺言とする方式です。
公証人が被相続人と証人2人に遺言の内容を読み聞かせ、遺言を成立させることになります。
秘密証書遺言と異なり、遺言の内容は、公証人と証人に知られることになるのです。
被相続人だけでは遺言書を作成できず、自力で証人を2人確保しなければなりません。
証人は、誰でもなれるわけではなく、他の相続人など遺産に関する利害関係人とその配偶者・直系血族をはじめ、公証人の配偶者・4親等内の親族や公証役場の職員なども証人になる資格は得られません。
また、意思能力や事理弁識能力が乏しく、遺言書の内容が理解できない未成年者や知的障がい者なども証人から除外されます。
身近な家族に証人を頼めないので、証人探しに困る人も少なくありません。
そこで、司法書士や行政書士が手数料を取って証人を務めることもあります。
公正証書遺言を作成すれば、公証役場に遺言書が保管されますので、自筆証書遺言のように紛失や隠匿のおそれがありません。家庭裁判所の検認も不要です。
公正証書遺言が遺言内容を実行するうえで、一番有効だと言えるでしょう。
ただし、先述した通り、相続人1人に全財産を相続するという内容の遺言を遺したとしても、他の相続人が遺留分減殺請求をすれば、遺留分を渡さなければなりません。
また、自筆証書遺言と異なり、公証役場の手続きに必要な手数料や証人に支払う依頼料などがかかることも忘れてはいけません。
公証役場の手数料は、遺産の額などによって変動します。
信頼性が高く利用頻度も多い公正証書遺言
公正証書遺言は、確実に遺志を実行できる手段として知られるようになり、多くの被相続人が利用するようになりました。
一度作成しても、その後いくらでも変更することは可能であり、手続きの労さえ厭わなければ、利用しやすいと言えるでしょう。
司法書士に依頼すれば、戸籍謄本などの必要書類の取り寄せから遺言書の案文の作成、公証人とのやりとり、証人の確保などをまとめて依頼できるため、事務的な負担が少なく、確実な遺言書を作成できます。