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合名会社を使った相続税対策

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「合名会社」という会社があるのはご存知でしょうか。
日本にある会社の約95%は「株式会社」なので、見かける機会は少ないと思います。

登記統計を見ても、平成29年の1年間に新しく設立された合名会社は151件しかないようです(対して、株式会社は95,781件、合同会社は27,442件)。

 法律用語ですが、会社に出資した人のことを「社員」と言います。
日常では会社で働く人のことを「社員」と言いますが、ここでの「社員」とは「従業員」のことではありません。株式会社に出資した人のことを特に「株主」といいますが、「株主」も出資したという意味では、株式会社の「社員」ということになります(変な感じはしますが。)。

 この「社員」には2種類あります。一つは「有限責任社員」、もう一つは「無限責任社員」と言います。
 「有限責任社員」とは、会社が倒産しても出資した社員は出資した財産以上の責任を負いませんというもので、株式会社の株主はこの「有限責任社員」に当たります。

ですので、もし株式を持っている会社が仮に倒産しても、株式の価値がゼロになるだけで、株主が会社の借金を返済する責任はありません。もし返済しなければならないとしたら、株式投資なんて怖くてできません。この点は株式制度の非常に優れたところと言われています。
 逆に、「無限責任社員」とは、会社が借金を返せない場合、出資者である社員は自分の全財産を売ってでも、会社の借金の返済義務を無制限に負わなければならないという非常に重い責任を伴うものです。

この制度は会社と取引をする相手方が、もし会社自身に何かあっても、その社員が責任を取ってくれるという安心、つまり債権者保護のためにあります。
 合名会社は、この無限責任社員のみが出資者となっている会社です(会社法576条第2項)。出資する社員にとっては、この無限責任を負うという点は非常に重要な問題となります。
ですので、その合名会社の懐事情を知り尽くした上でないと出資は避けておくべきでしょう。

 ここから少し専門的な話しになりますが、数年前から、この合名会社の社員が無限責任を負うというデメリットを逆手に取り、相続税対策として、合名会社を設立し、この合名会社名義で借入をし、賃貸アパートを建築するケースがあります。

その後、無限責任社員に相続が開始すると、その無限責任社員の相続人がその死亡した無限責任社員が負担する合名会社の債務超過額を相続しますが、相続税の計算において、無限責任社員である被相続人自身の債務として、相続税法第13条の規定により相続財産から控除することができるという国税庁の見解(国税庁質疑応答事例)を利用したものであります。

ただし、質疑応答事例には、「納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずる」と示唆していること、無限責任社員は合名会社の賃貸アパート経営から生じる債務に限らず、公租公課、不法行為責任(民法第709条)や賃貸アパートの所有者としての工作物責任(民法第717条)等一切の債務を負うので、本見解を利用した相続税対策を行うには十分な検討が必要です。

国税庁ホームページ

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/05/03.htm

(司法書士 桑田直樹/神戸事務所所長)

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